タクシーの中で、静かにため息を吐き出した。ペットボトルの蓋を開けては一口飲んで、忙しない仕草で蓋を閉める。そんな一連の仕草を何度も何度も繰り返した。待ち合わせ場所が近付くにつれて、いやに感覚が鋭くなっていく。

 待ち合わせ時間は夕方だが、まだ時計は十五時にすらなっていない。どうにも落ち着かなくて、屋台のベンチで待つことに決めてしまった。長々と時間を潰さなければならないが、暇つぶしのためのものは一切持参していない。どうせ本や仕事道具を持ち込んだところで、頭に入りやしないだろう。

 タクシーを降りてから、落ち着かない気持ちのままそわそわと周りを見渡す。そしてそのまま、世界が止まった。

「リヴァイさん、付き合ってください!」

 緊張顔で固まっていたエレンが叫ぶような声をあげて、バタバタと走ってくる。

「もちろんだ。俺はお前の母国に異動することになったから、いくらでも付き合えるどれだけでも付き合うぞ」

 抱きとめて、公衆だろうが関係なく口づける。腕の中でもぞもぞと暴れているがお構いなしだ。何度も何度も角度を変えて唇を合わせると、エレンはじわじわと動きを緩める。

 唇を開放してすぐに、驚いたような怒ったような顔のエレンが口を開いた。

「オレアンタの州の臨床研修に応募したのに! これじゃとんぼ返りじゃないですか」

 案外、自分たちは似ているらしい。一年前の己の思考をなぞる。離れていた一年は、これからのための準備期間。長いようで短い一年でどうにか環境を整えて、さらに長い間一緒にいるための。

「すまねえな。ビールでのなんでも奢るから許せ」

「嫌です、オレばっかり得しちまう。おごらせてください。言っておきますが、オレは人に奢るの初めてなんですから! 味わってくださいね!」

 拗ねたような物言いだが、目尻は下がり唇は持ち上がっている。軽く口づければ、ますます幸せそうな笑顔に変わった。エレンの瞳に映るリヴァイもまた、幸せそうに顔をぐしゃりと歪めていた。

 

 吹き出した汗が止まらない、そんな暑い夏だった