『――さんにフォローされました』

 机の上のスマホが震えて、画面がぱっと明るくなった。何度落としたのかと問い詰めたくなるようなボロボロのスマホの持ち主はリヴァイではない。

 明るくなったときと同じように唐突に画面は暗くなる。暗くなってもなお、網膜は名前とIDをしっかりと焼き付けていた。

 古い家の廊下の鳴き声がギシギシと近付いてくる。スマホの持ち主がトイレから戻ってくるのだ。視線をごく自然に問題集へと移して気配だけを伺った。

「相変わらずリヴァイの家、誰ともすれちがわねぇな」

 静かに入ってきたエレンは、リヴァイのすぐ隣の椅子にぎしっと腰を下ろした。十三歳で声変わりを終えたばかりの自分と違い、すらりと伸びた背にずっしりと乗った筋肉は明らかに大人の男然としている。それもそうだ、彼は大学生。中学生の自分から見て、身長や体格に差があるのは当然だ。彼が年上だからこそ週に二度、家庭教師としてこの部屋に来ているのだ。

「誰もいねぇからな。家政婦が来てるときも、基本的にこっちの廊下は通らねぇ」

 山の上にぽつんと建っているこの家は、周りをぐるりと歩くだけでも骨が折れる。道が悪いのではなく、それだけ家が大きいのだ。父親が子供のころは親族だけではなく、乳母や住み込みの家政婦までいる賑やかな屋敷だったそうだ。

「家政婦のおばちゃん、飯の作りおきとかしてくれるんだっけ」

「買い物や洗濯、時間が余れば掃除やアイロンがけもしてくれるぞ」

「すげえなぁ……四時間でそんなにできる気がしねえ」

「家庭教師には求めてねえよ、そんなスキル。ほら、ここまで解いた」

 ハッとした顔で視線を机に落とすエレンを盗み見る。大きめの目を縁取る睫毛は長く濃く、目蓋の動きに合わせてばさばさと動いている。淡いグレーの瞳はリヴァイの文字を追って左右に揺れた。

「あ、リヴァイ。ここだけど……――」

 砕けた態度を除いて、ほとんど何も変わっていない。艶のあるさらりとした髪も、耳心地のいい声色も、嫌になるぐらいに伸びた背も。そしてそれは、自分も同じだった。

 

 幼いころから、無意識に徹底的な効率を求める子供だった。人はどうすれば動くのか、どうすれば傷つくのが手に取るように分かった。代々由緒ある生まれだった両親とは似つかわしくない粗野で粗暴な態度と思考回路は、周りを困惑させるには充分だっただろう。ゴロツキみたいだと蔑まれ、まるで訓練された兵士のようだと気味悪がられた幼少期だった。

 何故周りの同年代はこうも子供なのか、どうして自分の思考回路は大人と変わらないのか。分からないまま過ごしていたら、いつの間にか両親は家にいつかなくなった。代わりに来るようになったのが家事代行サービスから派遣された家政婦と、そこらの大学生ではなくプロとして働いている家庭教師だ。

 今でこそ現役大学生であるエレンを正式に家庭教師として雇っているが、きっかけはただの人違いだ。

「オイ、お前が今日から来る家庭教師か?」

 電話で伝えられた通りのシンプルなジャケットとデニム姿だったエレンは、リヴァイと同じように別の人間と待ち合わせをしていたらしい。

「今日からって話じゃなかったとは思うんですが、……え? 今日から? あれ、アンタがですか?」

「ああ? 今日からだからここにいるんだろうが……まあいい、来い」

 お互いに違和感を感じながらさっさとタクシーを引っ掛けた。家に着いたとき、先に勘違いに気付いたのはエレンだ。

「あの、人違いだと思うんだけど……だってアンタ、どう見ても高校生じゃねえし」

「中学生だからな。そう言えば今までの家庭教師と違って随分と若いな? まさか、大学生か?」

「そうだけど……ああ、やっぱり、違ってんのかよ。あー……しまった、やっぱりバイトがパーになっちまった」

 取り出したスマホを見てがっくりと項垂れるエレンに、胸にちくちくと小骨が刺さったような痛みを感じた。

「どのこ大学なんだ?」

「ミットラス大学だけど」

「なら、うちの家庭教師にならないか?」

 プロでない学生を雇う決意をしたのは気紛れもあったが、エレンのバイトを壊した罪悪感からが大きい。元々親は家庭教師を付けるだけ付けてから関与していない。一言家庭教師を変えたと報告すればいいだけだった。

 悩む素振りを見せたエレン相手に時間や金額等全てを強引に決めてしまった。初日だからとタクシーを呼んだら嫌そうに顔を顰めたが、気にせず車内に放り込んだ。

「明日から、よろしく頼むな」

 ため息をついたように見えたが気にしないで家の中へと戻る。エレンは明日からリヴァイの家庭教師だ。

 

 もしも嫌になったとしても、やっぱり嫌だときちんと伝えに来るだろう。あいつは昔からそうだ。自分の中の正義からはブレる行動はしない。

 昨日会ったばかりだが手に取るように分かる。それを不思議だとは一ミリも思わなかった。記憶の引き出しには兵士だったエレン・イェーガーが、まるで当たり前のように詰まっていたからだ。そしてリヴァイは、かつて同じ兵士で、上官だった。

 指定した時間に来たエレンは、書店の袋を持ってやってきた。

「昨日ぶり。リヴァイくんでよかったか?」

「リヴァイでいい」

 砕けた態度が今更ながらに面白おかしく、唇が自然と弧を描く。自分と同じ記憶はないだろう。平和な時代で新たに人間関係を構築していくのは悪くない。

 

「なあ、オレの説明聞いてたか?」

「聞いてる、ここでこの公式を使うんだろ」

「珍しくぼーっとしてるかと思った。悪いな」

 実際に過去の記憶を掘り返してぼんやりとしていたのだが、眉尻を下げて謝られてしまっては何も言えまい。脳裏にチラチラとさっき見たIDが浮かべては意識的に消して、今度こそ聞き逃すまいとエレンの視線の先の問題を睨みつけた。

 相手は部下だったことを知らないだろうが、手本になるような人間でいたい気持ちはいまだに消えない。ずっと上に立っていた者としての悪い癖か。それとも、ずっと部下だった相手限定で発揮される、格好つけたい欲望か。答えはきっと後者だ。

 シャーペンの先が紙を引っ掻く音が妙に部屋に響く。問いが解けたと口を開こうとしたが、無機質なアラーム音がそれを阻止した。

「今日進めたところで分かんねえところはあったか?」

「ねぇな。何かあったら、次に伝える」

「リヴァイは覚えがいいし、真面目で助かる。本当に中学二年かと思うぐらいだ。あ、ここも合ってる。一回で完璧だもんなぁ」

 エレンが腕を上に伸ばした瞬間にみちみちと小さく関節が鳴った。

 学校で一度やった問題の復習に本来ならば家庭教師なんて不必要だ。授業さえ聞いていれば教師は分かりやすく解説するし、分からない点はその日のうちに学校内で聞けばいい。エレンが教えるものはそんな学校の復習をさらに突き詰めた内容だ。

 難関校の入試対策をすでに考えているらしく、授業に沿いながら考えられた予想外にしっかりとした学習プランに最初は目をむいたものだ。兵士のときに自頭のよさこそ感じていたものの、机の前での勉強よりは身体を動かすことのほうが得意だと思っていた。

「お前こそ、大学生じゃねぇみてぇな教え方だぞ」

「そうか? 自分が中学んときどうしてたか思い出しながらやってるからかな……」

 すらりとした指がぽりぽりともみあげの下を引っ掻く。分かりやすい照れた顔に唇がわずかに震えた。隠すように問題集を閉じて、全身を伸ばしながら立ち上がる。

「門まで送る」

「おう、ありがとうな」

 伸びてきた手がサラリと髪に触れて、それ以上何かするでもなく引っ込んでいった。古い廊下がギシギシと二人分の重みを訴える。遠くからふわりとただよう出汁の香りに、エレンの後ろ姿がピクリと反応した。

「美味そうな匂い。多分肉じゃがだな」

「気になるなら食ってけばいい」

「そういうわけにもいかねぇだろ。オレが食っちまったら、リヴァイの食う分が減っちまう」

「その分、何か持ってくりゃいいだろ。カップラーメンなら俺でも作れる」

「いやいや、なおさらありえねぇって」

 家事のプロが作った料理とカップラーメンでは合わないと考えているようだが、自分から見れば一食は一食だ。普段食べることがないものを食べたいんだと言えば、どんな反応に変わるのだろうか。お前と食事がしたいと言えば、付き合ってくれるだろうか。行動に移す前に玄関に着き、話が途切れる。

「じゃあ、木曜日にな」

「ああ、待ってる」

 門の前で手をひらひらと揺らせば、自転車にまたがったエレンが手を大きく振り返した。自宅から大きな道までひたすら下り道だ。エレンの姿は小さくなりながら曲がり角で消えて、すぐに音すら聞こえなくなった。

 

 戻ったあとに、充電しっぱなしだったスマホに指を滑らせる。しっかりと勉強を挟んだが、無駄に若い脳みそはしつこくIDと名前をこびりつかせていた。プライベートを覗き見するなんて下品な好奇心だ。そう自覚しながら検索して、目当てのリンクをタップした。

 こいつがフォローしたばかりの相手がエレンか。プロフに大学生とだけ書いたアカウントを、ひっそりとブックマークした。魔が差しただけでは済まされない。分かっていてなお、この行動を止められない。

 勢いのままに自分もIDを登録して、エレンが興味を持っているらしいものを片っ端からフォローした。まるでストーカーだが、どうにかして関わりを持ちたかった。

 最後の最後にエレンをフォローして『初めまして』の一文だけを送った。

 周りは自分を中学生として扱う者しかいない。リヴァイを大人びていると称して入るが、本物の大人として見るものは一人たりともいない。きっと寂しかったのだ。全ての行動を終えてから、自分に対して言い訳をした。

 本当の理由は違うと分かっている。分かりながら、気持ちに蓋をしつづけている。

 

 自発的に発するような内容もなければ、アップできるような写真もない。そもそも写真なんて撮ってしまえば、住んでいる場所がバレかねない。そこから紐付けてリヴァイのことまでバレるわけにもいかない。

 無理やり絞り出した言葉はエレンと違う者にキャッチされた。エレンのこともフォローしているらしいそいつとは不思議と馬が合う。調査兵とは違う軽薄なタイプの者だが、ぽつぽつと話は続いた。歳は三十代だと言う。リヴァイも同年代とだけ伝えた。現実と乖離した年齢を伝えたことに罪悪感はなかった。

 いいところの坊っちゃんの家庭教師をしている、最近たまに料理をしているがうまくいかない、よく誘われるゲームがあって気になっている。丸裸のエレンのプライベートを覗き見して、じわりじわりと広がっていく背徳的な満足感を感じた。やはり自分はストーカー気質があったのか。

 カリカリとささくれ立つ苛立ちを隠していたつもりだが、エレンにはお見通しだったらしい。

「少し休憩するぞ」

 強引に問題集を閉じられて、舌打ちではなくため息が漏れた。何があったか話せとばかりに強い視線で射抜いてくる。

「……学校で」

「学校で」

 降参だと口を開けば、椅子ごとエレンの身体がこちらを向いた。

「友好関係を深めて学生らしいことをさせたいんだろう。分かっているんだが『勉強できて金持ってるだけじゃ駄目だ』なんて適当な言われ方をして、ついイライラしちまった」

 教師になりたての男は二十代前半。今のエレンと大差ない年齢だ。言葉が浅慮なのは元の性格もあるだろうが、時代が平和だからだろう。こんな小さなことで苛立ってしまったのも、リヴァイが平和な時代に生きている思春期だからか。

 思考の流れは前のままだが、感情の細かな部分は年相応なのかもしれない。

「リヴァイは大人びてるからな」

「物心ついたときからずっと言われてる。だから、ここで一人なんだ」

 つい八つ当たりじみた恨み言を吐いてしまい、部下だった子供に随分と甘えていると自覚する。両親が帰ってこないことで楽にはなったが、嫌だとは思ったことはない。それどころか。

「寂しい?」

「寂しくはねえな。……昔から、寂しいなんて思ったことはなかった」

 寂しいと思う前に感じるのが悔しさだ。己が不甲斐ないせいで。それは調査兵団に入る前からずっと、自分に巣食っている感情で感傷だ。

 エレンの顔が妙に近い。何らかの感情を孕んで揺れる瞳は、動揺したまま固まるリヴァイの顔を頼りなく写しこんでいた。

「オレは、寂しい」

 ふ、と熱い息が降りかかり、首筋に熱が降った。背中を強い力でかき抱かれて、シャツの隙間からうなじに甘く噛みつかれている。

 そういう目で見ていなかったわけではない。しかし時代が時代だ、するどころか想いを告げることさえできなかった。

 何故自分は動けないのか。何故なすがままになっているのか。目の前の光景に圧倒されて、まるで薬でも盛られたかのごとく指先一つ動かせないでいる。

「嫌がらねえんだ? 勉強以外分かんねえような子供じゃねえよな?」

 するりとシャツを脱がされて、まだ筋肉の乗り切っていない貧相な身体があらわになる。目をきゅっと細めたエレンは、熱っぽいため息を吐き出して舌舐めずりをした。

「はぁ……すげぇいい、もう筋肉しっかりついてんのか……」

 ぬるついた舌に胸板をなぞられてギクリと背筋が震える。ただの上司部下、いや、今は家庭教師と生徒の関係だ。そんな素振り一つ見せていなかったくせに、鳥肌が立つほどの色気を振りまいてまた噛み付いてきた。

「肌、しっろ……」

 肌に降りかかる吐息が下肢にざわざわとした刺激を与える。今の世では性行為どころかキスすら未経験で生きているが、兵士長として生きているときはそれなりに経験があった。それなのに抵抗どころか、イニシアティブを握られたまま流されようとしている。

 筋張った大人の男の指がズボンのボタンを外して、ジジ、とファスナーを下ろしていく。少し長めの髪の先が肌をくすぐって腰が揺れた。

「は、……ビックリした顔してるくせに、すっげぇ元気になってる」

「おい、エレ――」

「舐めていい? ベッドで。嫌じゃねえんだろ? 童貞食ってやるよ」

 先端を下着越しにぐりぐりといじられて、布の色がじわりと変わった。

「オレばっかり寂しいの嫌だからさ、アンタのコレで慰めてよ」

 どうしてこうなってしまったのか。

 何故自分はベッドの上で、操られているかのごとく自ら服を脱いでいるのか。

「いい子」

 靴下まで全て脱ぎ去れば、頭を撫でられてゆっくりと押し倒された。エレンの背後からぐちゅぐちゅと淫猥な水音がしており、自分でいじっていることが容易に想像できる。

「待ってくれな……もうちょい、柔らかくなるまで……、ん……っ」

 淡々とした言葉は、角砂糖にはちみつをぶっかけたように甘ったるい艶色だ。粘質な水音に混じって、

「ッ……は」

 先端にぷくりと滲む蜜を舐め取られて背筋が甘く痺れた。濡れた舌先でちろちろと舐められ、熱のこもった目でじっと見つめられる。快感を逃がすべく強く掴んだシーツに深い皺が寄って波打った。

 快感に慣れていない怒張からじゅくじゅくと我慢汁が溢れ出す。じゅるっと水音と立てて吸い付いたエレンの喉がこくんと動いた。たった一言、止めろと言えば止めるだろう。嫌だと言えば二度としないだろう。乱れた息しか吐き出さない唇は、まだ言葉を話す余裕を保っている。しかしリヴァイは何も言えないまま快感を受け入れ続けた。

「リヴァイの、すげえビクビクしてて、すぐにでも出ちまいそう……」

 すらりとした長い脚がスプリングをギシギシと鳴かせる。腰の横が深く沈んで、怒張の先端にぬるつきが触れた。

「エレン、……」

「いいだろ? リヴァイ……」

 凄まじい色気にふつふつと肌がざわついた。どうにでもなれと唇を噛みしめると、一気に己を飲み込まれる。

「く、は、……ッ……!」

「あ、っ……リヴァイの、硬え……すげ、気持ちいい」

 情けない声に恥じらう前に、上擦った声で喘がれる。どんな女の膣よりも強く締め付けてくるのは、筋肉質な男の尻だからか。

 濡れないせいでぬるつきの少ない壁が怒張を包み込み、強い摩擦力で激しく擦り上げていく。べとついた奥も激しく締まる根本も蠢く内壁も、全てがリヴァイを翻弄した。

「はぁ、っ、ん、リヴァイ、いいぞ、イッて、いいから」

 ギシギシと上下に跳ねるエレンが自らのものに手を伸ばす。ぷっくりと膨らんだ先端からとろりと新たな我慢汁が溢れて指を濡らした。

「ッ、い、く、――ッ!」

 どくりと内壁に精を叩き込んだ。ぎゅうぎゅうと絞られて吐精が止まらない。苦しいぐらいの快感に腰を引こうにも、上にどっしりと座られているせいでそうもいかず、奥歯がギリギリと鳴った。

「オレも、……あ、は、出る、ッ……!」

 びしゃりと頬に熱い液体がかかった。次いでむわりと生臭さが鼻孔を擽る。

「ごめんな、かけちまった……」

 恍惚とした顔で汚れた頬を触られて、全身からがっくりと力が抜けた。快楽に溺れてしっかりと中出しまでしてしまったのに、いまさらどんな文句が言えようか。

 

「じゃあ、また明日な」

 ちゃっかり借りたシャワーですっきりとした顔のエレンは、何事もなかったような顔で帰っていった。今日が家政婦が来る金曜日ではなく木曜日でよかった。二人の妖しい声が聞こえることもなければ、ただの家庭教師がシャワーを浴びる言い訳を考える必要もない。

 エレンはこのことをなかったことにするつもりだろうか。作り置きされている夕食をもそもそと食べながら、行儀が悪いことを承知でスマホを取り出した。開いたアプリはエレンが登録しているSNSだ。

『これすげえハマってるやつ』

 コンビニ菓子の画像がちょうど五分前に投稿されている。過去をさかのぼってもリヴァイとのことは書かれていない。

『しょっちゅう広告出てくるゲーム、ついにダウンロードしちまった。フレンド募集中』

 見ている間に新たに発言したようだ。迷うことなくゲームをダウンロードして、手順に従ってフレンド申請をした。我ながら酷いストーカーだ。変に思われてはいけないと、手当たり次第にフレンド申請を飛ばした。ゲームが面白いかどうかどころか、どんなゲームなのかもまだ分からない。

 

 ベッドに寝っ転がって、スマホをひたすらタップする。フレンドを結ぶ旨味は大したことがないようだ。プレイを続けてするにあたって、必要なスタミナを分け合うことのみらしい。

 最初に手に入れた銃で、指示される通りに敵に銃弾を当てていく。複雑な動きを求められるのかと思いきや、案外一つ一つの動きは単純だ。要は撃たれないよう動きながら敵を撃っていけばいい。同じものをエレンもしているのだろうか。フレンド欄を見れば、リヴァイと同じようにエレンのレベルが一つ上がっていた。

 自分や味方の安全を守りながら敵に銃口を向けて撃ち殺す。任務のために生かす命に優先順位を付けて、味方全体がより生き残りやすい道を見つける。指先の器用さこそ必要だが、大まかな流れや動きは元々兵士だったリヴァイには容易く理解して攻略できた。殺されたとしても何度でも蘇るあたり、よりぬるく感じる。

 耳をそばだてると足音から敵の位置と人数が分かる。死角を見つけるのも隠れられそうな場所を見つけるのも、地下街上がりの人間は皆得意としている部分だろう。

 夜更かししない程度にやりこんでからパチリと電気を消した。いまのところ、エレンとのレベル差は全くなく進み具合は同程度だ。中学生の自分と大学生のあいつなら、進み具合に大して差が開くことはないだろう。大学を、きちんと真面目に行っているならばの話だが。

 

『昨日ゲームやりこんでたら寝坊した。一限終わったら朝メシ食う』

 少し抜けた大学生っぷりに唇を緩めた。コンビニに寄る暇もなかったようだ。なんともなしにゲームを開けば、レベル差はぐんと開いていた。学校が終わり次第やりたいが、今日もエレンは家に来る。胸の内側がちりちりと疼いた。昨日一方的に童貞を奪われたのだ。どんな顔をして会えばいいか、いまさらながらに頭を抱えたくなった。

『あー腹減った。誰かに朝メシ買ってきてもらったらよかった』

 のんきな発言に唇がへの字に下がる。きっとエレンは、リヴァイのことなんかこれっぽっちも考えてはいない。ストーカーのように発言を拾い同じゲームをはじめて、そしてこうして日中から覗き見してしまっていることは予想だにしていないだろう。それでいいのだが、昨日の今日だとなんとなく納得がいかない。

 童貞どころか精神ごと喰われてしまうかと思った。リヴァイのものを飲み込みながら己のそれを扱くエレンは男の顔のまま、そこらの女よりも淫猥な色気をぶちまけていた。びしゃりと頬を叩いたあいつの精液を臭いとも汚いとも思わなかった。

 とろんと恍惚を映し出した目で頬を触る姿を思い出して、ざわざわと腰がざわめき自身の雄がぴくりと動く。熱くなった息を静かに吐き出して、エレンが来る前に抜いてしまおうと心に決めた。金曜日は家政婦が来る曜日だ。彼女が来る時間までに、抜いた証拠をしっかりと隠滅しなければ。

 

 排水口にくるくると流れていく白濁の上から、風呂場用洗剤をぶっかける。思春期の身体は簡単に興奮して簡単に発射した。

 身体を洗っているうちに柔らかく萎んだそれに、もう一度手を伸ばす。子供と大人の中間の色味をした雄は、エレンの内壁を思い出した瞬間にむくりと膨らんだ。連続で興奮できるのは、自分がまだ精通を終えたばかりの子供だからだろう。手の中でカチカチに硬くなった雄は、もっと刺激がほしいとばかりにヒクリと震えた。

 エレンの青臭い匂いと熱を思い出す。荒々しい動きと濡れない後孔、そして酷い締め付けはまごうことなく男だった。

 掠れて上擦った声も、妙に視線を縫い付ける喉仏も、ときおりきゅっと丸まる爪先も、男らしい癖に酷く艶やかだった。唾液か体液か、てらてらと光っていた唇を貪ってやればよかった。

「……っ、は、……」

 手のひらにじゅくじゅくと吐精の振動が伝わった。タイルの上にぱたぱたと白色が落ちていく。粘っこいそれは、シャワーを直接かけるまでタイル地にしつこくこびりついていた。

 まるで自分の心模様だ。引導を渡されるまで、期待と落胆に揺さぶられながらエレンにしつこく踏み込み続けるのだろう。それも、直接ではなくネット越しに。

 熱いままのため息を吐き出して、今度こそ風呂場を出るべくボディソープのポンプを押した。